前田茂勝

茂勝という実名が謎である。『寛政譜』が典拠であろうが、『断家譜』は利宗（あるいは忠家）、『藩翰譜』は宗利（茂勝とも書いてあるが）とする。しかし兄は秀以（書状があるので確からしい）と「秀」の字が入っているのに、玄以の跡を継いだ人間が茂勝という誰ともつながってないような実名なのは腑に落ちない。他を探してみる。「細川忠興軍功記」の中に「前田主膳秀利」という記述を見つける。“いかにも”な実名である。ついでに「細川忠興軍功記」を詳しく読む。前田主膳が田辺城を受け取ったことに対して忠興は「主膳儀御請取可被成候。心安存候得と」と言ったという。では、なぜ心安かったのだろうか。『綿考輯録』にその鍵となりそうな記述がある。「前田主膳正義勝《前田徳善院の甥なり、飯河豊前か聟なり》」。前田主膳は忠興の従兄弟である飯河豊前の婿であった。そういう関係から心安いという発言が出たのだろう。玄以と主膳の続柄に関しての謎は新たな史料を見つけるまで放置しておく。